ヴィーテ・イタリア オーダーメイドツアー 旅行記  その3


   アチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレ・ディ・モデナ
   Aceto balsamico tradizionale di Modena



   誰もが「バルサミコ酢」の存在を知るようになって来ました。

   極一般の家庭にもバルサミコ酢が常備されるようになってサラダや
   色んな料理に使用されるようになっています。


   あなたの家のバルサミコ酢のラベルを見てください。

   「アチェート・バルサミコ」 Aceto Balsamico の表記はあっても
   「アチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレ」 Aceto Balsamico Tradizionale
   の表記はないはずです。


   
   アチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレ(以下トラディツィオナーレ)は
   イタリアで最も高価な食材の一つです。


   確かに、高価な食材の双璧として「白トリュフ」の存在があるでしょう。
   でも、白トリュフはあくまでも自然の産物であって、ピエモンテ州アルバの
   独特の土壌と気候からしか生まれ得ない大地の恵です。


   それに比べてトラディツィオナーレは、人間の手間隙の極限を行く食材と
   言っていいのではないかと思います。


   高くて当たり前です。品質保護協会が掲げる規定ではトラディツィオナーレ
   になるための最低熟成期間は12年です(^^;)


   バローロでも3年、ブルネッロでも5年でっせ!!


   それも果汁を発酵させずに煮詰めた果汁を気の遠くなるような歳月に
   わたって酸化、熟成させたもの、それがトラディツィオナーレです。


   もちろんこれは最低熟成期間ですから、15年もの、30年もの、50年もの
   100年ものが存在します。


   では、あなたが冷蔵庫にしまっているアチェート・バルサミコはいったい
   何なのか?




   バッタモンです。




   ワインビネガーやキャラメルを添加して、「バルサミコ風」に作ったお酢ですね。


   普通の穀物酢なんかと比べると甘みがあって、果実味やコクが感じられ
   るかもしれませんが、トラディツィオナーレの味わいの深みと酸の美しさの  
   前では、足元にも及びません。
    
   
   また、本物のトラディツィオナーレは、モデナのものとレッジョ・エミリアのものの
   2種類あるのですが、双方とも100CCの小さなボトルにしか入っていませんし
   品質保護協会の刻印がしっかりと打ち込まれているので混同することは
   ありえません。


   
   このバルサミコ酢の熟成庫を見たい!!



   それがこの旅の中のひとつの願いでした。そしてそれは、ヴェローナの
   ワイナリーを訪問した次の日、実現することになります。


   

   ヴェローナから南下すると、イタリア最大のポー平原が広がります。
   このポー平原より北なのか、南なのかによってイタリアの農産物
   とりわけワイン、そして各地のワイン文化に大きな差が出てきます。

   東西に太く横たわっているこの平野がイタリアの食文化を大きく     
   二つに分断しているといっても過言ではないでしょう。

   
   

   霧のかかった平野です。牧草地が広がり、木々が点在している。
   この風景を見ると僕の脳裏では、映画「1900年」のモリコーネの
   テーマ音楽が流れ始めます(^^;)


   エミリア・ロマーニャ州ではほとんどず〜〜っと「1900年」が鳴り
   つづけていました。それだけでも幸せな体験でした。


   今までは、ローマやトスカーナの丘陵地のなだらかな地平の変化が
   好きで、逆にポー平原のダラダラと続く平地が退屈だったのですが
   今回のポー平原は実に艶かしかった。平地の中にある人間と自然の
   共存の形が「美」という視覚的で観念的なものを基準にしてバランスが
   保たれている、という印象を受けました。


   写真を見ていただくと分かりますが、見た目にあまり美しいとはいえない
   プレハブの倉庫や自動販売機、パチンコ屋や中古車センターが見えません(^^;)


   もちろん自然保護地域では日本でもそうかもしれませんが、それにしても
   ネオンや看板の無神経な広告がないだけでも驚きです。


   そして、前世紀前半までは住まれていたであろう大きな農家がそのままの
   姿で点在しています。まさしく映画「木靴の樹」「1900年」の世界です。
   (ミニバスの運転手ヴァルテルさんは「きっと今でも住んでいる家はあるよ」
    と解説してくださいました。)

   ヴェローナからモデナまでは車で約1時間半。そのほとんどを上の写真の
   ような美しい平地を見ながら高速道路を走らせることになります。


   アウトストラーダ・デル・ソーレを出てすぐの高架を下りると今回訪問先の
   マルピーギ社の本社兼熟成庫が現われてきます。

  

   


   さて、バルサミコ酢の熟成庫(アチェタイア)です。

   3階の最上階、屋根裏部屋とも呼べる場所で、柔らかな日差しが入り
   込んでいました。

   でも、最初に驚かされるのは、この小さな樽の可愛らしい部屋ではなく
   階段を登りきる前に感じる芳醇なバルサミコ酢の香りです。

   この写真からは想像もつかないでしょうが、部屋一杯にバルサミコ酢の
   強く濃縮した果実香と酢酸香が充満しています。

   ブドウさん、バクテリアさん、ありがとう!!!ですね。


   一つ一つの小さな樽は実は素材が違うんですね。


   桜、オーク、ビャクシン、桑、栗などです。この小さな樽の中にモスト・コット
   (煮詰めたブドウ果汁)が4分の3ほど入れられています。

  

    この7つ並んだ一式を「バッテリア」と呼びます。
   一年に一回ラッキング(樽移し)を行います。


   この樽も100年以上使用しているそうです。マードレと呼ばれる
   バクテリアが底に溜まって特有の酸化熟成をするためにこの樽の内部が
   洗浄されることはない、ということです。


   各樽に白い布がかぶせられていますが、これは約10センチ四方空いている
   樽の穴を優しくコーティングして、ゆるやかにブドウ果汁を酸化させる通気を
   促進させるためですね。

   白い布をかぶせているのが綺麗なようであり、またある種のいやな想像を
   してしまいます(^^;)それは僕が日本人だからでしょうか・・・。


   

    創始者 マルチェッロ・マルピーギ氏  創立は1850年。
    その横で小さな小さな樽の中で眠っているのは50年物のトラディツィオナーレ!!

   

   こちらは、なななんと、100年もの! マ、マァジッスカ??!!
   
   まさに1900年初頭の我々の親も生まれていない時代からここで寝かされた
   ものです(^^;)ほとんど、想像を越えています。


   バルサミコというのはイタリア語で「芳香性のある」という形容詞ですので
   まさに香水のようなお酢という意味ですね。


   中世後期からルネッサンスの頃からこの酢は飲み物としてもてはやされて
   いたらしいですし、ペストの治療薬にもなったそうです。


   その後、「バルサミコ」という名前が定着したのが18世紀ごろのことらしい
   ですが、こうした酢が家宝として大切に保存され、生産者の世襲財産になって
   いるそうです。



   このアチェタイアに訪問すれば50年ものは売ってくれますが、一般には
   非売品ですし、100年物は当然非売品なのです。

   確かに、彼らはビジネスとしてアチェートを売るわけですが、アチェタイアを
   見て、樽に触れて、その空間に満ち溢れた果実と熟成の香りを嗅いでいると
   その商品とは、自分達の祖先の亡霊か、魂なのではないか!という恐ろしい
   想像をしてしまいました。


   (ネ?だから白い布で樽の表面を覆ってるでしょ?)

   でもモニカ嬢は熱くアチェートを語りながらも、どこか淡々としていて
   我々をショップにいざなってくれました(^^;)


   ショップではテイスティングタイムです。

   トラディツィオナーレではないけれど6年熟成させたものや15年、30年
   そして50年ものと小さじ一杯ずつのテイスティングになりました。

   熟成させるごとに濃縮度が高くなるのは言うまでもありませんが、鳥肌が
   立つほど感動したのはその恐ろしいまでに美しい酸です。


   あんなに甘美でうっとりとさせる、綺麗な酸はワインでもなかなかお目に
   かかれません。

   これが30年、50年経っても全く失われていないのです。


   う、う、う、う、う、うっそぉでぇしょう〜〜??!!


   うろたえて後ずさりしてしまうような酸と香りのシンフォニーに
   我を疑いました。




   今回説明してくださったモニカさんが言われます。


   「保存には決して冷蔵庫を使わないで下さい!!どんなに暑くても
    どんなに湿気が高かろうと、常温で室内で保存してください。トラ
    ディツィオナーレならほぼ永遠に保存できます!!」

    「冷蔵庫に入れてしまうと、旨味が凝固して味わいが損なわれます
    から、冷蔵庫だけは避けてください。絶対に常温です!」

    「実はモデナの夏も日本と同じように暑くて、そして湿気が凄く高い
    のです!でも、我が家のドラディツィオナーレは全然品質が
    変わりませんよ。絶対、大丈夫!!」



    確かに、あれだけの強靭でたくましいボディーがあればどんな高温
    多湿でも自分で自分を守っちゃうだろう、と思わせる力強さとなんだか
    霊的な力さえ感じてしまいます。



    10年以上前、初めてテイスティングしたときの感想が


    「とんかつソースみたい!」


    だった自分を殺してやりたい!!




   帰り際に、モデナのトラディツィオナーレと隣町レッジョ・エミリアの
   トラディツィオナーレ生産者の対抗関係について質問してみました。

   どちらが本物だ、どちらの方が歴史が古いだとか、モデナ人が
   レッジョのトラディツィオナーレをDOCから除外しようとしたとか、様々な
   エピソードがあるんです。ま、イタリアにはありがちなことですけど。


    「いえいえ、対抗意識だなんてとんでもない。個性は違いますが
    モデナもレッジョ・エミリアも品質は厳しく管理されていますからね。
    私達が敵対しているのは、むしろ”ニセの”バルサミコ酢たちです。
    スーパーで売られているようなバルサミコ酢から一切の”バルサミコ”
    という名をなくすまで、その戦いはつづくでしょうね」

    きっぱりとした言葉が返ってきました(^^)。


    究極の芳香酢=バルサミコ。トラディツィオナーレは、庶民の手には
    少々厳しい価格かもしれません。

    でも、イタリア旅行という絶好の機会を利用してマルピーギ社を訪ね
    そしてアチェタイアの香りを浴びることは、何物にも代えがたい素敵な
    体験でした!!


    マルピーギ社のサイト ⇒ コチラ

    マルピーギ社のトラディツィオナーレを輸入販売するベリッシモさん
    のサイト ⇒ コチラ




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