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  ソアヴェ・クラッシコ、いえ、ヴェローナワインの雄
  レオニルド・ピエロパン氏独占インタヴュー

  2004年11月下旬 フードライナー「ミニイタリー」にて


イタリアの白で最も有名なワインはなんでしょうか。

いくつかの名前が挙げられるでしょうが、おそらく誰もが
「ソアーヴェ」の名前は知っているんじゃないでしょうか。

え?知らない?

じゃ、極簡単にご説明しましょう。北イタリアのミラノとヴェネツィアの
ちょうど真ん中にヴェローナという街があります。

そのヴェローナの白ワインとして世界的に有名なのが
ソアーヴェなのですが、かつては、その知名度も
「まずい!」「味が薄い!」などの評判からで、決して
「質」の評判ではなかったんですね。

そんなソアーヴェの中でも伝統地域であるクラッシコの代表
ワイナリー「ピエロパン社」の当主レオニルド・ピエロパン氏に
ソアーヴェの歴史や現状について伺いました。



高岡(以下高) : ソアーヴェの歴史について簡単にお話していただけ
           ますか?

ピエロパン氏(以下ピ):

    1931年に初めて政府から認定されていますがDOCとしての
    認定は1968年です。この時点で丘陵地帯としてのソアーヴェ・
    クラッシコ地域とその他のゾーン、ソアーヴェが区別される
    ようになりました。

   クラッシコ地区は約1300ヘクタール。ソアーヴェは5000
   ヘクタールの面積を持ちます。

高 : クラッシコ地区は丘陵地、ノーマルなソアーヴェは平地という差
    だけなのですか?

ピ : 圧倒的にブドウの質に差がでます。クラッシコの丘陵地帯は
    火山質と凝灰岩質でミネラルがとても豊富です。一方平地は
    砂質と粘土質が混ざっていてとても肥沃で、生産性に優れて 
    いまうが、その分質が低下します。

    ソアーヴェ地区は1930年代以前はほとんどが、とうもろこし、小麦
    タバコ、砂糖大根などが耕作されていました。その後、ブドウの木
    を植え替えていったのです。

   一方ソアーヴェ・クラッシコ地区は文字通りローマ時代からの歴史が
   ある畑も存在します。

高 : 丘陵地のクラッシコとと平地のノーマル・ソアーヴェではワインの
    味わいにどんな差がでますか?

ピ : 丘陵地は、日当たりが良くなります。また平地と違って
    棚を張り巡らすこともできませんし、雨も地中に蓄積しませんから
    おのずと収穫量も少なくなります。収量をおさえることはブドウの質
    向上につながります。

    一方平地では、大量生産されますからブドウの味が薄められ  
    結局は凝縮感のない、薄いワインができます。

    なので、少なくとも二つのソアーヴェが存在すると考えてください。
    一つはキャラクターのない、ニュートラルなソアーヴェ。残念ながら
    こちらソアーヴェの方が有名なのですが・・・・

    もう一つは、エキス分の高いソアーヴェ・クラッシコ。個性が
    はっきりと現れ畑ごとの性格がワインに表現されます。

高 : この二つのソアーヴェが同じ規定の中にあるのは問題ない
     ですか?

ピ : かなり無理があるでしょう。平地のソアーヴェはいわば商業的な
    事情からできた産地であって、クラッシコとはまったく違います。
    また最近ソアーヴェ・スペリオーレがDOCGに昇格しましたが、
    あれも商業的なアプローチによって生まれた銘柄といっても良い。
    アルコール度が数パーセント高いだけで、丘陵地のワインと
    平地のワインを同じグループに入れることは不可能です

    だから私のワインはDOCGには入らないのです。

高 : ただその質が高いというソアーヴェ・クラッシコもすべてが
    高品質とはいかないようですね。

ピ : 残念ながらそのとおりです。おそらく95%のソアーヴェ・クラッシコ
    がカンティーナ・ソチャーレ(協同組合ワイナリー)のワインで、残る
    5%が自社畑からワイン作りまでを行う生産者によるソアーヴェで
    す。

    ピエロパン社は33ヘクタールすべてが自社畑で、これで最大級の
    規模になります。

    その5%の中でも優秀な生産者はせいぜい15社ぐらいでしょう。

高 : トスカーナの様な他州や外国からの資本進出とかもあるのですか?

ピ : 幸運にもソアーヴェ・クラッシコ地区にはそのような動きは全くあり
    ません。我々は皆土地に根ざしてきた者ばかりです。

    ただ構造上の不幸はあります。それは、ほとんどの農家がブドウ
   作りを副業として営んでいることです。それぞれのブドウ農家は
    おそらく1ヘクタールにも満たない畑を所有していてカンティーナ・
    ソチャーレと契約しています。

    この規模で、カンティーナ・ソチャーレにブドウを売って、経済的に
    家庭を支えていくことは不可能です。

    だから、土地を売って都会に出て行くほどではありませんが、
    ほとんどの農家、それも若者たちでさえ、工場で働き、その片手間
    でブドウを栽培している、というのが現状なのです。

    そういう農家では、ワイン文化を深めるとか、ワインの味わいの
    質向上に対する意識が低くなります。

    小さな生産者がまとまることもなく、ただ漠然とブドウ作りをしてい
    ては明確な目標を持ったワイン作りをすることは非常に困難です

    これは構造上の問題です。

高 : ピエロパンさんは、そうした中にあって、はじめて質的に高い
    ソアーヴェクラッシコを作ったパイオニア的存在だったんですね。

ピ : そのとおりです。ピエロパン社は私の祖父の代から質にこだわり
    続けている唯一の生産者です。1960年以前、そのような生産者
    は全くいませんでしたから。

    1980年代になって、ロベルト・アンセルミが質的に優れた
    ソアーヴェ・クラッシコを生産し始めますが、それが私たちに
    追随した初めての例といっても良いでしょう。

高 : ロベルト・アンセルミは、ソアーヴェ・クラッシコDOCを捨てて、
    IGTというカテゴリー的には低いワインを生産するという道を
    選んで物議を醸しましたね。この動きをどうご覧になられますか?


ピ : 私個人としては正しい選択ではないと思いますが、これはあくまで
    もロベルト・アンセルミ自身の問題です。一ついえることは、彼ら
    ソアーヴェ・クラッシコDOCから脱却する生産者たちは、それほど
    この地域のワイン作りと深い関係を感じていないのだと思います。

   私は、常にソアーヴェ・クラッシコの牽引役でもありましたから、これ
   までの活動によってソアーヴェ・クラッシコワインの質を高めてきた
   者としての誇りがあります。

   他社のソアーヴェの質が低いからと言って
   「じゃあ、ソアーヴェ・クラッシコ辞めます」という考え方とは全く
   次元が違うのです。

   それに対してロベルト・アンセルミなど私の後に上質のソアーヴェを
   作り出した人たちは、”勇気ある”選択が出来るのでしょう。

高 : また同じソアーヴェ・クラッシコでも、バリック熟成(フレンチオーク
     の225リットルの小さな樽の香味)が強すぎて、まるでソアー
    ヴェとは言えないようなある種グロテスクなソアーヴェも存在
    しています。

ピ : 大げさすぎる例がいくつかありますね(笑)。

   それは、ソアーヴェのブドウ品種であるガルガーネガ種と
   トレッビアーノ・ディ・ソアーヴェ種の潜在能力を大げさに誇示
   しようとした時期があったのです。

   82年にシャルドネ種やピノ・ビアンコ種もソアーヴェのブドウ
   品種として認可されました。

   それからというもの外来品種を混ぜて、バリックで熟成させる
   と良いワインができると勘違いした生産者が出てきたのです。

   今ではもう常識と理解されているようですが、ブドウの収穫量を
   落とさないとワインの質は上らないというワイン醸造の基本概念を
   無視している生産者は意外とまだいるものです。

高 : 規定ではソアーヴェの収量制限はいかほどでしたっけ?

ピ : 1ヘクタール当たり14トンです。でも、この規定は丘陵地も
    平地も同じ量なんです。この時点ですでに規定自体が間違って
    いると思います。

   ただこれは認定されている最大限の量ですので、14トン収穫した
   ブドウから質的に高いワインができることはありません。おそら
   8トンから10トンが良いワインを造るための限界だと思います。

    良いソアーヴェを作るために不可欠なのは、外来品種を混ぜる
    ことでもなく、醸造テクニックを刷新することでもなく、また醸造
    設備を整えることでもありません。

    最も大切なことは、ボトルの中にソアーヴェ地区の畑が、その畑に
    見合った形で表現されることです。

高 : その点をもう少し詳しく教えてもらえますか?

ピ : かつては、ソアーヴェクラッシコ地区の中で、モンテフォルテ村の
    ソアーヴェ・クラッシコとその他の地区のソアーヴェ・クラッシコでは
    微妙に味わいが違っていました。

    それは、畑の標高が違う、畑の向きが違う(したがって日当たりが
    違う)、などからワインの味わいに違いが見分けられたのです。

    ところがこの20年の間にずいぶんと混乱が生じてしまった。どの
    地区のソアーヴェ、どの地区のガルガーネガ種なのかが分から
    なくなってしまいました。

    これは、生産者が「畑の表現」ではなく「個性の表現」として
    ワインづくりをしてしまったからです。今言ったブドウ品種や
    醸造テクニックなどが生産者によって大きく変わってしまうこと
    によって「これが質の高いソアーヴェ・クラッシコ」というような
    アウトラインがめちゃくちゃになってしまったのです。

    私はこの動きに対しては、これからも警鐘を鳴らし続けて
    いきたいと思っています。

高 : 樽、特にバリックの使用についてはどのようにお考えですか?

ピ : 実は、バリックの使用は新しい習慣ではありません。もちろん
    昔はフレンチオークを使用することはありませんでしたが・・・・。
    小さな樽で醸造すること自体はソアーヴェの典型的な伝統
    でもありますので否定はしません。

    例えば、私のワインの中ではラ・ロッカというワインにだけ発酵
    時から500リットルのフレンチオーク樽を使っています。
    その後、2000リットルの樽に移して8〜10ヶ月熟成させます。

    一部だけ新樽を使用しますが、ほんのわずかです。
    国際的に非常に評価の高いワインですが、ソアーヴェ・クラッシコ
    の繊細な味わいを消さないために樽の味わいは最小に押さえる  
    ようにしています。

    「畑の表現」が明確に現れる範囲で最小限のフレンチオークを
     使用するべきだと考えます。

高 : その畑の表現がなされた典型的な良質のソアーヴェ・クラッシコを
    どのように描写されますか?

ピ : 良いソアーヴェ・クラッシコは、行き過ぎた酸味がなく、香りが
    適度に高く、ミネラル感が豊富で、典型的な香りとしては
    ニワトコでしょうか、特に料理との相性に優れています。

    料理との関係をつくるための「スペース」を持っている味わい
    と言ったらいいでしょうか。

    例えば、ソアーヴェ・クラッシコ以外の北イタリアの白ワイン、
    例えば アルト・アディジェなどの質的に高い白ワインは、時に
    香りが強すぎて料理との相性でバランスを崩す傾向があります。

    またピエモンテの方にいけば、酸が少し尖りすぎているように
    感じます。

    南イタリアの方にいけば、行き過ぎた苦味や甘み、また酸が
    ぼやけた印象もあります。

    そういう意味で、ソアーヴェ・クラッシコは、飲み心地の良さと料理 
    との相性にとても優れたワインと言えます。

高 : な、なるほど・・・。ソアーヴェ・クラッシコの特徴を初めて明確に
    インプットできたような気がします(笑)。ところで、ピエロパンさん、
    あなたのワイナリーへの訪問は可能なのですか?

ピ : もちろんですよ!今回、日本に来たのは初めてですが、本当に
    ワインのお陰でいい経験をさせてもらったと思っています。地球の
    裏側のこんな遠いところの人たちと私のワインを通してコミュニ
    ケーションできる・・・・ワインの本当に素晴らしい側面だと思い
    ます。

    もしあなた方にお越しいただけるのなら、本当に喜んでご案内
    します。是非、いらしてください!

高 : やった〜!じゃ〜是非、ヴィーテ・イタリアの旅行で一度企画
    します。その時はよろしくお願いします!!


                終

レオニルド・ピエロパンさんは、70歳にはなろうかというご老人だが
その物腰の柔らかさ、語り口の落ち着きの中に、芯の強いワイン人
を感じさせてくれました。

マスメディアにも周りの動向にも全く動じず、ただひたすらにソアーヴェ
クラッシコの質を高める喜びを感じて生きてきた人。

是非、ピエロパン社の畑やワイナリーを訪問して、またソアーヴェ・クラッシコの丘に立ってレオニルド・ピエロパンさんの優しい語り口で説明を
聞いて見たい!

こんな思いがジワジワと募ってきました。


尚、ワイナリー訪問は、次の年に実現しました。訪問記を
ご覧ください。 ⇒ コチラ
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